溝口健二監督の内弟子助監督、私がした仕事 (1)
映画「残菊物語(島耕二監督作品)」
溝口式で考証したリアリズム
著 者 | 宮嶋 八蔵 | ||
口述筆記 | 竹田美壽恵 | ||
HP担当 | 勝 成忠 |
戯場訓蒙図繪より
1.映画題名 残菊物語
2.制作年 1956年(昭和31年) 島耕治監督作品 戦後
「残菊物語」は1939年(昭和14年)に溝口監督によって映像化され、溝口作品の中でも評価されている戦前の映画で、1939年のキネマ旬報邦画ベスト・テン第2位に入賞しています。溝口作品「芸道三部作」の一つとして知られています。
(フリー百科事典「ウィキぺディア」より)
3.制作意図
演劇の世界を背景に、一芸をきわめようとする男の辛苦とその為に自らを犠牲とする女の献身を主題として、清純な愛情の悲劇を描く。
フリー百科事典「ウィキペディア」より
4.準備稿表紙 3-1 宮嶋八蔵所蔵
準備稿の裏 3-2
私は、この準備稿(台本)を受け取るとすぐに調べ物に入ります。
以下、準備稿(台本)に宮嶋が、調べ物のメモを書いています。その一部です。 3-3
3-4 準備稿(台本) 私の調べ物のメモ。その一部です。
3-5 準備稿(台本) 私の調べ物のメモ。その一部です。
3-7 準備稿(台本) 私の調べ物のメモ。その一部です
3-8 準備稿(台本) 私の調べ物のメモ。その一部です
3-9 準備稿(台本) 私の調べ物のメモ。その一部です
3-11 準備稿(台本) 私の調べ物のメモ。その一部です
5.決定稿表紙 4-1 宮嶋八蔵所蔵
決定稿 裏表紙 4-2
6.製作所 大映 京都撮影所
7.スタッフ
制作 |
永田雅一 |
企画 |
辻 久一 |
原作 |
村松梢風 |
脚本 |
依田義賢 |
監督 |
島 耕二 |
助監督 |
多田英憲 小木谷好彦 土井茂 宮嶋八蔵 菅野(東京撮影所より) |
撮影 |
長井信一 |
美術監督 |
伊藤熹朔 |
美術助手 |
戸田 加藤 西岡 義信 |
衣裳考証 |
上野芳生 |
音楽 |
大森盛太郎 |
録音 |
海原幸夫 |
照明 |
中岡源權 |
制作主任 |
橋本正嗣 |
記録 |
原やすこ |
装飾 |
中島竹次郎 |
美粧 |
野口年一 小林昌典 |
結髪 |
花井りつ |
演技事務 |
毛利美津夫(制作主任助手) |
進行 |
村上忠男 |
|
|
*裏方スタッフも制作主任も皆、溝口組のメンバーです。(菅野さんを除いて)
それでも映画タイトルにある美術監督も衣裳考証も島監督も一切のスタッフ教育用資料を持って来ませんので最初スタッフルームにあったのは、準備稿と台本だけで、あとは
がらんどうでした。さて溝口組で育った助監督として如何にすべきか……。
先に述べましたように「残菊物語」は1939年(昭和14年)に溝口監督によって映像化されています。幸い、島監督と溝口先生とは非常に親しかったので、まず溝口健二先生に資料なしで困っている事を打ち明けました。一番貴重で膨大な量の「明治風俗画報」をお持ちでした。当時これは東大と溝口邸にしかありませんのでちょっとそこらの図書館で…とはまいりません。
今、手元に明治風俗画報は持っていませんので形を紹介するわけにはいきません。
この時溝口先生はすぐに「明治風俗画報」全巻を貸して下さったのです。
明治ものをたくさん撮っておられましたので、帙も表紙も手ずれと運搬によって傷んでおりましたので「使った後は帙と表紙を直してくれればよろしい。他にこれは卒業しました」と言って本棚付きで頂いた泉鏡花全集と3冊 これで考証に困るものは何一つありません。
明治風俗画報 について
明治22年(1889)2月10日、日本初のグラフィック雑誌となる「風俗画報」が創刊されました。日本中に散らばる新旧あらゆる風俗を図版を用いて広く収集し、これを後世に伝えるという趣旨のもと、東陽堂の高い印刷技術による精細な銅版・石版(せきばん)画を誌面の中心に据えた風俗画報は、伝統文化をはじめ様々な社会風俗の話題を読者に提供し、グラフィック雑誌の先駆けとして明治中期以降の庶民文化の発展に大きく寄与していきました。とりわけ、慶弔・災害・博覧会・戦争などの、時事折々の特集・増刊号は、全64種類と明治の世相を網羅するほどで、豊富な図版で日本各地の風景風俗を克明に捉えた「名所図絵」シリーズは103冊にも及んでいます。
通巻号数は478、増刊を含めたその総刊行数は27年間で全517冊に達しています。
ネット ときのそのとき明治大正風俗流行通信より
2)島組「残菊物語」スタッフルームにて風俗考証調べをしている助監督
私の後に写っているのが、溝口先生からお借りした「明治風俗画報」の一部です。
写っている分の12~13倍分ありました。夜店の古本屋が持ち運びするリンゴ箱に
近い格納箱も溝口邸からお借りしてきたものです。
8.配役 5-1 (宮嶋八蔵の台本より)
配役 5-2 (宮嶋八蔵の台本より)
その他省略 宮嶋八蔵の台本より
9.内容
身は歌舞伎の名門に在りながら容れられぬ恋故進んで入った苦難の道。若き名優
尾上菊之助とその恋人お徳との心打つ純愛と悲恋の物語。
香盤 セットの部の一部 7-2
香盤 セットの部の一部 7-3
その他セットの部 省略
香盤 ロケーションの部 7-4
その他ロケーションの部 省略
11.スッタッフ裏方の教育用 調べ物
スタッフ裏方とは監督を含めて俳優以外をすべて裏方と言われています。
助監督・撮影部・効果部・録音部・美術部(セッテング)…小道具部・美粧部・衣裳部などです。
1)スクラップブック表紙 宮嶋八蔵所蔵
①新橋駅 明治風俗画報より
② 残菊物語 新橋駅内 セット撮影
➂ 残菊物語 新橋駅内 セット撮影
④右下 車夫 御客の荷物とひざ掛けを持っている 左 2枚目 駅員
トレース宮嶋
⑤ふれ太鼓 口上を述べながら興行を知らせる太鼓
⑥辻番付 戯場訓蒙図繪より写す
⑦辻番付の説明 宮嶋八蔵が調べたもの
⑧-1 香具師(ヤシ)的屋(てきや) トレース宮嶋
香具師(ヤシ)的屋(てきや) トレース宮嶋
⑨ 女性風俗 トレース宮嶋
⑩-4 一般風俗(仕出しなど含む…) トレース宮嶋
⑪―1 明治35年の女性の髪形 トレース宮嶋
⑪―2
明治35年の女性の髪形 トレース宮嶋
他 省略
(2)舞台関係 資料①-1 戯場訓蒙図会3冊 宮嶋八蔵所蔵 写真
資料①-2 戯場訓蒙図会 宮嶋八蔵所蔵
資料 ② 戯場訓蒙図会の内容紹介 宮嶋八蔵所蔵
資料 ➂ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ④ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑤ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑥ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑦ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑧ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑨ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑩ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑪ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑫ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑬ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑭ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑮ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
資料 ⑯ 戯場訓蒙図会の内容紹介 デジカメ撮影したもの 宮嶋八蔵所蔵
(3)庶民風俗
これは、このドラマの時代よりちょっと下がると思いますが、明治風俗画報がないので一部の参考にも使った資料です。
田舎まわりの時は周囲の庶民風俗は明治初期の風俗が残っていますが、都会の劇場関係の庶民は明治中期以降になります。参考に載せました。
1) 當世風俗五十番歌合
宮嶋八蔵が原本よりトレーシングペーパーに筆写して、青写真に仕上げ
ファイルにまとめたものです。
資料4-1 宮嶋八蔵所蔵
資料4-2 當世風俗五十番歌合 ファイルの内容紹介
資料4-3 當世風俗五十番歌合 ファイルの内容紹介
資料4-4 トレース宮嶋
資料4-5
資料 4-6 トレース宮嶋
資料 4-7
資料 4-8 トレース宮嶋
資料 4-9
トレース宮嶋
資料 4-11
資料 4-12
その他は省略しました。
12.
溝口健二監督の芸道3部作 1939年(昭和14年) 残菊物語・
1940年(昭和15年) 浪花女 ・ 1941年(昭和16年) 芸道一代男も
明治風俗画報と戯場訓蒙図絵などを風俗参考資料として使われたのです。
13.
残菊物語 恒例のクランクアップの記念写真 宮嶋八蔵所蔵
中央に長谷川一夫さん・淡島千景さん・島耕二監督
左後ろから3列目の白いハンチング帽子を被っているのが宮嶋八蔵
14.思いついたままに(溝口監督の内弟子になったきっかけ…)
レオナルド・ダビンチのモナリザと甲斐荘楠音先生の島原太夫の絵の相似
繰り返す事になりますが、私が甲斐荘楠音先生の太夫の絵を観た時に「…先生 …これモナリザ!」と言った時、甲斐荘先生はニンマリとして「そうだよ… よく解ったねぇ。」ダビンチと甲斐荘先生の相似点は、この2人ともホモであった事にあります。
モナリザにも太夫の絵にも想う男性が隠れているのです。この事は甲斐荘先生の価値が画壇で高い再評価を受けて画集の単行本なども出ましたのでその時に気付いたものであります。
この「これ… モナリザ!」の一言が溝口先生の内弟子書生になるきっかけになったのです。
モナ・リザ(平凡社の世界名画全集)島原太夫(日本経済新聞社 甲斐荘楠音展)
<サロン山賊会についての追加>
2007年3月に宮嶋八蔵の日本映画四方山話「溝口組と他の組との違い」で「サロン
『山賊会』のこと」を書きました。日本経済新聞社の「甲斐荘楠音展」に昭和27年
当時の「山賊会名簿」が掲載されていますので、紹介致します。
甲斐荘楠音年譜より
おわり